Sweet Honey Baby
 お前らが見てるのはどうせ、俺の家柄だの、金だの、ステータスなんだろ?


 それでいて、俺からの愛情や献身を求めて、理想通りの俺じゃなければすぐに泣きわめき、悲劇のヒロインぶるバカ女どもにはうんざりだった。


 それでも俺も年頃の男だし、性欲も溜まれば女が嫌いなわけじゃない。


 まともに恋愛しようとか、俺の立場でできるはずもない。


 そのつもりもなかったから、婚約者とかいう女たちはちょうどいい性欲処理の相手にはなった。


 しつけが厳しい家で掌中の珠のように育てられたとやらいう深窓のご令嬢も、一皮剥けばみんなただの雌豚で、結局のところ一般庶民の女たちより貪欲で淫乱な女の方が多かった。


 そりゃそうだ。


 俺らはみんな柵で飼われた家畜みたいなもの。


 かくいう俺も例外じゃない。


 どうせ家柄と血統を照らし合わせて交配して、後継者を残すのが第一の仕事。


 そうとなれば後生大事に貞操がどうのと言ったところで、家の都合で離婚や結婚を繰り返すのも当たり前だったから、建前は建前にすぎなかった。


 そういう意味では、いま俺の肩に寄りかかっているこの女もご同様。


 俺の家との釣り合いで選ばれただけで、この女自身も俺なんかには興味がない。


 けど、なぜか他の女たちに感じるような胸の奥がひんやりとする嘲りを感じなかった。


 …なんでなんだろうな。


 どうせヤキ入れられそうになってたんだろう、一睨みくれてやって女どもを牽制し連れ出してやると、珍しく俺に甘えるように身を任せて逆らわない。


 それに不思議な高揚と、嬉しいような浮き立つような感情を憶えて、俺はそんな自分がおかしくて、自分の中の甘い疼きを無理矢理に振り払った。




 「…車、乗れよ」

 「うん」




 玄関にまわさせた車に手を貸して先に乗り込ませ、俺も乗り込む。


 レディファーストの観点から言えば、俺が先に乗るのが本当なんだが、立っているのもしんどそうで、降りるときにも運転手にさせるのではなく、俺が手を貸してやりたかった。
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