Sweet Honey Baby
 「…ふぅ」




 一度では終わらなかった。


 やはりというか、予想通りと言うべきか、自分本位なセックスだったけど、思ったほど痛くも辛くもなかった。


 いや、デカイ図体に見合った持ち物はお持ちでしたよ?(←下品?)


 でも、なんていうか、この見た目だもんね。
 

 女はより取り見取りなんだろう。


 かなり女の扱いに手慣れていて、手や唇で女を感じさせるのが上手かった。


 たぶん、本人はやりたいようにやってるだけなんだろうけど、こういうのを床上手って言うのかな。


 若いし、体力あるし、テクもある。


 や、言うことなしだね。


 でも…。


 あたしの胸に顔を伏せ、荒い息をつく男の緩くカーブを描く黒髪を撫でる。


 これだけ汗だくになってて癖が落ちないってことは、パーマかけてんだ。


 似合ってるけど、なんだかもったいない。


 枝毛もなくってせっかくいい髪質してるのに…。


 自分が天パがけっこうキツイから、いかにも日本人の真っ直ぐな髪の毛に憧れる。


 そんなことを思って髪を梳いていたら、縋り付くみたいに抱き付いてる男がなんだか哀れになってきて、ふと呟いた。




 「…可哀想だね、あんた」

 「あ?」

 「けっこうすごい美形なのに、あんたって女に愛してもらったことがないんだね」




 抱かれながら感じていたこと。


 こいつの抱き方は互いの快感を引き出すことだけに終始していて、愛し愛されるあの悦びを知らない動物的なセックスだった。


 ま、行きずりよりマシかどうかもわからない初対面のあたしとじゃあ、愛するも愛さないもないけどさ。




 「……お前、ずいぶん、経験豊富みたいだよな」

 「まあ、それなりに」




 高校生の時、一時期荒れていた時期があって、それこそ自暴自棄なあたしは『百人切り』は達成できていたんじゃないかと思う。


 自分の体がどうだとか、これからの未来がどうだとか、一切考えられない時期があったから。


 今思うと、望まぬ妊娠…なんて事態にならなかったのは、本当に運が良かったことで(もちろん、避妊には人一倍気を使っていたけど)、病気にもならなかったのは奇跡だったかもしれない。




 「ふ…ん、とんだアバズレだったってわけだ」

 「…まあ、否定しないけどね。あんただって相当経験あるでしょ?」

 「男の甲斐性だろ?」

 「…亭主関白ってわけ?若いのに、時代錯誤だわね」




 呆れたあたしに、フンと膨れた顔で、ソッポを向く。


 なんだか、子供みたいだ。




 「別に俺が思ってるわけじゃねぇよ。一般論だろ?」

 「…一般論ねぇ。まあ、いいけど。一応、一つあんたに頼みっていうか、あたしとこういうことするつもりなら条件があるんだけど?」




 これだけはハッキリ約束させなければ、と今のうちに告げておく。


 まさか、顔を合わせてしょっぱなから、裸でこんな話をしなければならないとは…。


 過去の経験や出生の経緯はともかく、ごく普通の家庭で育って、ごく平凡な価値観を持っているあたしにしてみれば、あまりに驚愕の事態だわ。


 それでも、やっぱり動転しないのは、深層のご令嬢や初心な女の子とは違うってことなんだろうな。


 気持ちいいものは、気持ちいいし、体の快楽を否定したりしない。


 もう恋愛は、あたしには必要ないけれど。


 だからこそ、こんな結婚も受け入れられる。


 枯れてるあたしには、これくらいの男の方がちょうどいいのかもしれない。


 愛せない罪悪感を抱かずに済む




 「…浮気するなって?」




 上目使いであたしを見上げていた男が、上半身を起こし、あたしの頭を腕で囲い込んで覗き込み、嘲るような笑みを浮かべる。


 …せっかく美形なのに、こういう顔すると台無しだな。


 なんて、どうでもいい感想が思い浮かぶ。 




 「いや、別にあんたが余所で誰と寝てきても構わないけど、決まった女がいるわけじゃないならコンドームはつけてセックスしてきてよね?後、定期的に病気の検査も受けること。あたしとのセックスでもつけてくれるのがベストだけど、それって許されること?」
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