Sweet Honey Baby
 二人して言いたい放題いいやがって。


 他の奴だったらとっくに、半殺しにしてやったところだ。


 まあ、だいたいが俺の一睨みで黙る奴らがほとんどだったし、下手に手を出して面倒になるのは今の俺には得策じゃなかった。 


 本当はスカッとぶっ飛ばしたり、シメてやる方が性に合ってんだけど。


 『アイツ』が俺の前に現れた時から、俺が無茶をして親父の勘気に触れられない理由ができた。


 ある程度のお痛程度は親父も見逃してくれる。


 それも跡取りの甲斐性だ、若気の至りだと笑い飛ばす剛毅な男だと見られたがりだからな。


 バカくせぇ。


 本当は野心ギラギラで、剛毅どころがキツネみたいに姑息で小心な男のくせによ。


 そんな親父に猫被って媚び売ってる自分が、時々一番バカ臭ぇ。


 でも、『アイツ』にだけには絶対に負けたくない。


 親父の顔を明かしてやるためにも、『アイツ』にだけは。




 「でも、猫ショップにスウィーツの店、ことごとく外しちゃったか」

 「そうだっ!てめぇ、適当なこと言いやがってっ。女釣るなら、俺に任せろって言いやがったくせに、どういうことだよ!」




 ひかるのリサーチで俺的には万全?の備えだった。

 
 ところが、いざ千聡のやつを誘えば、どれもこれも不発で。




 「…いや、しょうがないじゃん。調査不足はそもそも一ちゃんの方でしょ?」

 「だから、その一ちゃんっていうのやめろって何度言えばわかんだよ!」




 ムカつくんだよ。


 年上ぶった(実際に年も上だが)千聡を思い出して。


 たかだか2,3才上だろ?


 別にけっこうフツーの女だし、場合によっては俺よりガキ臭い時もある。 


 腹立ちまぎれに、ガバッとグラスの酒を煽る。


 なんだか、この前は途中までけっこういい雰囲気だった気がしたのに、最後でしくじっちまった。


 それでも、別れ際はそんなに悪いもんじゃなかったはずだ。


 千聡を待ってる間、手持無沙汰に覗いたショーウィンドーで見つけたアクセサリー。


 本当は指輪とか買ってやろうかとか思ったんだけどな。


 いきなり指輪はねぇかと、ピアス見てたら、マネキンがしてたアンクレットが気に入った。


 別にジンクスがどうとかそういうつもりじゃなかったんだけど。


 それでも、靴の方はけっこうトラウマになってるから、避けたのは本当だ。


 よりにもよって、理沙帆には靴買ってやった直後に裏切られたしよ。


 俺の買ってやった靴を履いて行ったか知らねぇけど、よりによってちょうどひかるにジンクスを聞いた次の日だ。
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