Sweet Honey Baby
 黄色い声がブースの外間近であがる。


 俺たちがいるのはクラブのVIPルームだから、他の連中はおいそれとは入って来れなかった。




 「……またお前の遊び相手か」

 「何言ってんだよ。俺は花梨と付き合いだしてから彼女一筋だよ。って、えっと」

 「ひっど~い、私たちのこと忘れちゃったんですか?」




 なんか見覚えがある女たち三人の中で、真ん中のやたらと色気を振りまいてる女がこっちに媚を売る目を向けてくる。


 俺もさんざん食い散らした口で、来るもの拒まずだった時もあるけど、こういう女は結構後腐れして厄介で何度も手を出したことを後悔した。


 ひかるは今の女と付き合う以前はかなり派手に遊んでいて、崇史の方も女がいないわけじゃないんだろうが、こいつは俺たちにも秘密主義。


 見た目、お堅いいかにも優等生タイプだしな、崇史の場合。


 顔だって俺ほどじゃないにしても、整っていてクールなところがいいとか言って女どもが群がってもおかしくはない奴だ。


 まあ、俺とは別の意味で近寄りがたいっていうか、そう簡単には言い寄れねぇんだろうけど。




 「…あ、思いだした。KSI重工の安川常務の娘さん?確か、崇史と同じクラスじゃなかったっけ?」 




 崇史もだからと言って声をかけるでもないけど、否定しない。




 「安川容子です。財前さんとも去年、一緒だったんですよ」




 正直、一々クラスメートの顔なんて憶えてない。 


 が…。 


 学校での記憶でなく、つい最近の記憶の中に、その女の顔があった。


 確か、この前加々美コーポレーションの創立記念パーティで千聡をシメようとしていた女か。


 よく俺の前に顔を出せたものだと、半分呆れ、半分感心する。


 ひかるが返事を返したことで、許可が下りたと思ったのか、取り巻き連れてルームの中へと勝手に入ってきた。


 なんだよ、こいつら、いつ俺らが入っていいって言った?


 怒鳴りつけてやろうと口を開きかけて…、




 「そういえば、千聡さん、この前、なんだか知り合いっぽい男の人に声をかけられてましたよ」
 
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