躊躇いと戸惑いの中で
外に出ると終電が過ぎたばかりのせいか、タクシーはなかなかつかまらなかった。
行きかうタクシーには、どれもこれも先客あり。
「少し歩きましょうか」
言われるまま、大通りにそって乾君と並んで歩いた。
酔い覚ましには、丁度いいかもしれない。
緩やかに吹く夜風が、心地いい。
髪を少しだけふわりと持ち上げるみたいに吹く風に、ゆっくりと瞼を閉じてから開いた。
「風、気持ちいいね」
「そうですね」
隣から、穏やかな声が返ってくる。
私の歩調に合わせる乾君。
彼の方がずっと身長も高いのだから、歩幅だって私より大きいはず。
なのに、距離が離れてしまうことなんかなくて、寄り添うような雰囲気は、私を気遣っているのがよく解る。
こういう時間を過ごすのは、いつ以来だろう。
まだ、店舗にいた頃には、こんなことも幾度かあったっけ。
大学から付き合っていた彼と、忙しい仕事の合間を縫って逢っていたころ。
その彼と別れて、よく行くお店の店員さんから告白されて一度だけデートもした。
友達の紹介でも付き合ったし、同窓会で再会した同級生とも少しだけ。
どの相手とも、それほど長くは続かなかったけれど、みんないい思い出になっている。
そう考えると、私ってそれなりにいい恋をしているのかもしれない。
けど、本社に勤めるようになって、どうしてか恋愛がうまくいかなくなってしまった。
相手の忙しさに振り回されて、自分のわがままに嫌気がさして。
結局、恋愛に現を抜かすよりも、仕事をしている自分を好きになっていた。
店舗で商品に触れているほうが自分にはあっているって思っていたけれど、本社に来てみたら、それよりもずっとこっちの方が肌にあっていたんだ。
おかけで恋愛からはずっと遠ざかって、女子力なんてゼロになっていたわけだけれど。