躊躇いと戸惑いの中で


「午後から会議ですか?」

ランチの時間が早い理由がなんなのか、訊ねられて首を横に振った。

「午後から新店に行くの。オープン以来顔を出してないからね」
「新店ですか……」

乾君が少しだけ間をおく。

「あの」
「ん?」

「碓氷さん、一人で行くんですか?」
「あ……。うーんと……」

河野の名前を言いよどんでしまうと、察しがいい彼は直ぐに気がついてしまった。

「河野さんとですか?」

乾君の確信的な表情は、冷静すぎる。
河野のこで嘘をつくのもおかしな話で、私は素直に頷いた。

「仕事だからね」

そう付け加えることで、やましさを感じている自分の気持ちを打ち消した。

「そうですか……」

さっき私を驚かせ、子供みたいに楽しそうにしていた彼の表情が、あっという間にかげってしまう。

そんな顔をして欲しくはないけれど、これも仕事なのだから仕方ない。

「そんな顔しないで」

給湯室に入ったところで、乾君の目を見て話す。

「河野とは、どうしても仕事上からむことが多いの。だから、こういう事は、この先もよくあることで――――」
「わかってます。すみません……」

乾君は沈んだ顔のまま、何とか口角を持ち上げた。
その表情に、安堵の息をつく。


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