躊躇いと戸惑いの中で
「お二人は、仲がいいんですね」
河野と終わりの見えないような掛け合いをしていたら、コの字の間にはさまれるように正座していた乾君が店舗で言っていたのと同じことを言い、更に変なこと付け足す。
「お付き合いされてるんですか?」
ぶほっ!!
と豪快に吹いて咳き込んだのは、河野だ。
そこまで噴出すって、失礼じゃん。
豪快に咳き込んでいる河野をひと睨みするも、全く気がついていない。
お絞りでも投げつけてやろうか。
「乾。お前どう見たら俺らが付き合っているように見えんだよ」
「よく二人でいるのを見かけるし、二人っきりで飲みに行くって話しも聞いていたので。それに、今の会話を聞いていたら、そんな風に見えましたけど」
乾君は冷静に、ここもお二人は常連みたいだし、と付け加えた。
「あー。ほらね。現場からは、こんな風に捻じ曲がった見方をされるのよ」
私は、やれやれ。と溜息をつく。
河野のことを嫌いではないけれど、そんな風に見た事は一度もない。
同じような考えを持っていて気もあうし、仕事のことでお互い相談し易いだけの話だ。
上に行けば行くほど、愚痴をこぼせる相手というのは少なくなっていく。
だから、河野はある意味貴重な存在だった。
「そうですか。お付き合い、していないんですね」
乾君は、二度ほど頷くと、お絞りで手を拭き始めた。
「乾、ビールでいいか?」
「はい」
「つまみは適当に頼むぞ。なんか食いたい物あったら勝手に注文しろ」
メニューを乾君に渡した河野は、早速店長を呼んでビールやつまみを頼んでいる。