躊躇いと戸惑いの中で
新店へ着くと、社長はまだ到着しておらず、とりあえずほっとする。
その後、手分けをし、急いで改善点のあるところをチェックし直しにかかった。
「思ったより、チェック箇所が少なくて助かったな」
河野の言葉にほっと息をつき頷きを返した。
約一時間後に秘書を伴って現れた社長は、店内を廻りながら満足げな顔をしている。
なんとか、社長のご機嫌を損ねずに済んだらしい。
店内をくまなく視て歩く社長の後ろにつきながら思ったけれど、飾られている数多くのPOPが梶原君のときよりも親しみ易さを醸し出していた。
梶原君のPOPも解り易すく、彼の細かい性格上親切に描かれていたけれど。
乾君のはそれにプラスするような、なんていうか身近な存在感を引き出していた。
「POP、更に良くなりましたね」
どうやら社長の目にも留まったらしい。
「河野君の采配は、間違っていなかった。というところでしょうか」
社長がニコニコとして、後ろをついて歩く河野を振り返った。
河野は、いえいえ。なんてちょっと謙遜して見せている。
あの顔は、満更でもないってところかな。
二時間ほど滞在していた社長が、ようやく新店を後にした。
社長の乗る車を駐車場から見送り、その姿が見えなくなったところで、河野と新店店長、そして私の三人は深く息を吐き出した。
店内に戻る店長に挨拶をしたあと、河野がこぼす。
「ほっとしたら、腹が減ってきたな」
確かに。
社長の行動に焦ってしまい、ランチがお預け状態のままだった。
「ご飯に行こうか」
私が提案すると、我先にと近くのファミレスに足を向けた。