躊躇いと戸惑いの中で
ランチタイムからはずれた店内は、席が選びたい放題だった。
窓際の席に腰掛けると、河野は早速メニューに食いついている。
「料理は逃げないよ」
笑って突っ込むと、逃げられてからじゃ遅いからな。と意味深に返され言葉に詰まる。
相当お腹が空いていたのか、少ししてから届いた料理はあっという間に河野の胃の中へと消えていった。
そうして、優雅に食後のコーヒーを飲んでいる。
私はといえば、余りにお腹が空きすぎて、逆になかなか箸が進まなかった。
食べ切れそうにない目の前の料理と睨みあいするのを諦めて、私も食後のコーヒーに手をつける。
「乾と、付き合ってるのか」
のんびり構えていたせいで、また油断していた。
まさか、突然そんな質問をされるとは、これっぽちっちも想像していなかった。
いや、会社から車に乗ったときまでは、考えていたんだけれど。
満腹感に浸った脳内が、その話題を棚上げにしていたんだ。
目の前にいる河野からの質問を聞こえないふりで黙っているわけにもいかなくて、私はこくりと頷きを返した。
「結婚は、諦めたのか?」
「わかんない……」
「自分のことだろ?」
僅かな呆れを含んだ河野の声。
だけど、自分でも本当によく解らないのだから仕方ない。
彼の若さを考えれば、半ば諦めているようなものなのかもしれない。
だけど、完璧に諦めきれたかといえば、多分そうじゃない。
河野に訊ねられて、見て見ぬふりを続けていた僅かに残る焦りがジワジワと心に広がっていった。