躊躇いと戸惑いの中で
外に出てから待ち合わせ場所を訊こうと携帯を耳に当てたら、建物の陰からヒョコッと乾君が現れた。
「あ。ここで待ってたんだね」
「はい。待ち焦がれていました」
満面の笑みで言った後、すっと右手が繋がると頬が緩む私。
ああ、だめだ。
些細なことが嬉しくてしょうがない。
私は、女子高生かっ。
胸中の突っ込みを悟られないように、表情だけは取り繕ってみる。
並んで駅をめざしながらも、繋いだ手に全神経がいく感じ。
ドクドクいい過ぎている自分の血液の音が、乾君に伝わっている気がしてちょっと表情を窺ってみたら、彼も丁度私を見ていて益々ドクドクしてしまう。
ニヘラ、と笑うと、にこりと爽やかな笑顔を返され、余裕の差に浮んだ苦笑いを隠した。
「何処で食べよっか?」
自分の高鳴る胸の動揺を隠すために、話題をふった。
「今朝、帰る時に見かけたところがあって」
「帰るとき?」
鸚鵡返ししたところで、乾君がうちのマンションから朝帰りしたことを思い出した。
当然、また胸は高鳴る。
「駅へ行く道に、新しそうな店を見つけたんです。酒もいろいろ扱ってるみたいで」
「ああ。ちょっとおしゃれなカフェ風のところじゃない?」
「多分、そうです」
早朝で看板などは店内にしまわれてはいたものの、ガラス窓の奥から見えた壁のメニューがよさげだったらしい。
「じゃあ。そこにしよ」
張り切って言う私を面白そうな顔で見ている。
「なに?」
「お酒飲めるのが嬉しそうだなって」
「あれ? 私お酒の話したっけ?」
確かに、美味しいワインはあるかな、なんて。
食べ物より、何を飲もうか考えたけれどね。
「顔に書いてあります」
私の心の中は、どうやら彼には透け透けらしい。