躊躇いと戸惑いの中で
ほんの二度訪れただけの私が住む町を、彼は迷いなくリードしながら歩いて行く。
駅前のロータリーを過ぎ、本屋を通り越し、コンビニを過ぎる。
小さな個人経営の可愛らしいカフェを過ぎたすぐのところに、乾君の言っていたそのお店はあった。
「ここね」
中を覗くと、結構な混み具合だった。
オープンして間もないせいか、とても賑わっている。
「席、あるかな?」
ドアを開けて中に入ると、真っ白のシャツに黒のエプロンをしたカフェ風スタイルのスマートな若い男性店員がやってきた。
「座れますか?」
「大丈夫ですよ」
私が訊ねると、素敵な笑顔で応えてくれる。
「よかった。ありがと」
店員さんに言って後に続き店内を歩いていくと、奥は意外と広くてカウンター近くのテーブル席へと案内された。
椅子を引かれて腰掛けると、どうぞ、というように素敵な営業スマイル。
「ありがとう」
「お決まりになりましたら、お呼びください」
店員さんは、お水の入ったグラスとお絞り、そしてメニューと飛び切りのスマイルを置いて下がっていった。
「感じのいいお店だね」
メニューを開きながら乾君に言うと、そうですね。なんて、余りそうでもないような返事。
あれ?
なんで?
ここに来るまでの間は、結構機嫌がよかったよね?
もしかして、昼間ランチできなかったことを蒸し返しているわけじゃないよね……。