躊躇いと戸惑いの中で
「何、ニヤニヤしてんだよ」
「え?!」
いつの間にやってきたのか、気がつかないうちに河野が私のそばに立っていて驚いた。
「ニヤニヤなんて、してないしっ」
慌てて携帯の画面を伏せると、そうですか~。なんて嫌味くさ言い方をされる。
「打ち合わせ、するぞ」
そうだった。
既存店のことで社長から改善を求められている件を、河野と打ち合わせることになっていたんだ。
たくさんの書類を手に、二人で会議室へ向かった。
急ぎ足で廊下を歩きながら、あーでもないこーでもないと、会議室に行く前から河野と意見をぶつけ合い、POPフロアの前を通り過ぎてエレベーターに向かっていくところで後ろから声をかけられた。
「碓氷さんっ」
呼ばれて振り向くと、乾君が少し先の廊下からこちらを向いて立っていた。
声をかけてきたわりには、こちらへ来る様子はないけれど、黙ってその場にいる表情は、何か話しでもあるような感じに見える。
「ごめん。河野、先に行ってて」
到着したエレベーターを前に促すと、あとが詰まってるんだ。早く来いよ。とひと言添えて乗り込んだ。
それを見送ってから、立ったままで待っている聡太のそばに駆け寄る。
「どうしたの? 何かあった?」
急な用事なのかと、重い書類の数々を抱えなおし訊ねると、プリンターのインクが欲しいという。
申し訳ないけれど。
急いでいるのはどう見てもわかるのに、それを引き止めるほどの用件とは思えない。
「えっとー。急ぎかな?」
急ぎじゃないなら、できれば打ち合わせが済んでからにして欲しい。