躊躇いと戸惑いの中で
「打ち合わせ、一時間くらいで済むと思うんだけど」
「今すぐ必要なんです」
あとにして欲しいと言葉にすると、それに重ねるようにしてくる。
「わかった」
仕方なく鍵を取りに行くために踵を返すと、聡太が抱えている書類を持ってくれた。
「ありがと」
急ぐ私の後ろについてくる聡太が質問をしてくる。
「河野さんと二人で、何の打合せですか?」
サラリと訊ねてこられても……。
「あ、うん。色々……ね」
部下には話せないこともあるんだ、と困った顔をしていたら、それ以上は訊ねてこなかった。
急いで備品室の鍵を取りにいきインクを渡す。
「はい、これ。あと、記入もお願いね」
河野を待たせていることと、仕事に追われているのとで、つい急かすような態度になってしまう。
「沙穂、忙しそうだね」
「そうね。やる事は鬼のようよ」
溜息交じりに早口で言うと、聡太の眉根が下がった。
その直ぐあとには、誰もいないこの場所で甘えたそうな表情を見せられる。
だけど、そんなことをしている余裕もないし。
ここは、仕事場だ。
「ごめんね。急ぐんだ」
できるだけやんわりとした言い方でそれを断ったつもりだけれど、どうやら納得できないらしく。
聡太は、備品室の鍵を閉めて小走りに急ぐ私について一緒に歩き、エレベーターのドアが閉まるまで見送っていた。