躊躇いと戸惑いの中で
河野の姿が見えなくなったところで、相談事がなんなのかを訊ねた。
「スタッフと何か揉め事?」
さっき聡太と一緒だったアルバイトスタッフが、フロアに戻っていったのが気になっていたからだ。
彼は確か、ずっと長く勤めているスタッフだ。
「うん、まぁ」
歯切れ悪く応える聡太が目を伏せる。
ここでは話しにくいのかもしれない。
「向こうで話そっか」
廊下の突き当たりにある自販機のそばまで行くこと、聡太が財布を取り出す。
「何か飲む?」
誰もいないせいで、普段のような口調だ。
「乾君。ここ会社」
少し窘めるように言うと、小さく息をつく。
その態度は、堅苦しいね、なんて言われている気がして、少しだけ気持ちがダウンする。
それでも、割り切ってやっていかなきゃならないのが現実。
甘えはミスを呼ぶ。
頑なに態度を変えない私に諦めたように、聡太が言いなおす。
「すみません。何か飲みますか?」
「ありがと。でも、大丈夫」
聡太は自分の分の缶コーヒーを買うと、こちらへ向き話しだした。