躊躇いと戸惑いの中で
「なぁ。今日、飲みに行かないか?」
「いいけど。大丈夫?」
「うん、まぁ……」
河野がこうやって言葉を濁す時は、大概嫌な仕事を無理にふられた時だ。
やっぱり社長に無理難題を押し付けられてるんだ。
もしかして、小田さんの尻拭いだろうか?
小田さんも頑張っているのはよく解るんだけど、時々結果に結び付けられないのが残念なのよね。
なんて、小田さんを前にはとてもいえないけれど。
なんにしても、河野が弱ってるんじゃあ、同僚としてほっとけないよ。
「了解。久しぶりに愚痴を聞いてあげますよ」
「よろしく」
そう言って、河野はいつものようにコーヒーの缶を一つ机に置く。
「いつものとこな」
缶コーヒーを置いた河野は、フロアを出ながら背中越しに手を振り行ってしまった。
私は、置かれた缶コーヒーに手を伸ばし、ありがたく頂く。
そうだ。
聡太へ連絡をいれておかなきゃ。
河野と出かけるなんていえば、落ち込んでしまう気はするけれど。
困っている同僚を放ってはおけない。
私だって、今まで随分と河野には助けられてきたんだ。
仕事上、私にも譲れないものはある。
聡太には、正直に河野から相談を持ちかけられて、二人で話すことになったことを伝えた。
すると、即効で返信が来たけれど、それはとても短く返事になっていない一文。
【 直ぐに来て 】
え?
今自分が送ったメッセージに対しての返信にしてはおかしいよね。
どうしたんだろ。
急用?
何かトラブルでもあったのかな?
ここ数日続いていた聡太の態度を思えば、少し躊躇ってしまう。
けど、スタッフとのことで悩んでもいたし……。
山盛りになっている書類の山を見つめながらも、仕事に追われて焦る気持ちを抑えて席を立ち、POPのフロアにいる聡太の元へと急いで駆けつける。
もしかしたら、スタッフと酷くもめているのかもしれない。
辞める辞めないで、言い合いにでもなっているんじゃないか、と想像したら焦りが滲んだ。
急がなきゃ。
取る物も取り敢えず席を立ち、廊下を早足に急いでいると、喫煙室から戻ってきた河野と会った。
「どうした。なんかあったのか?」
急ぐ私の姿に声をかけてくれたのだけれど、聡太からの呼び出しなんて話たら、またブチブチ言われそうで口を濁した。
「ちょっとね」
苦笑いの私に、探るような視線が痛い。
しかも、通せんぼでもするみたいに、私の目の前に立ちはだかり退いてくれない。
聡太が困っているかもしれないのに、どうしよう……。