躊躇いと戸惑いの中で
「河野さんにもそうやって優しくするの?」
話を戻す聡太の目が僅かにきつくなる。
「優しくっていうか。愚痴を訊いてあげるだけよ」
正直に話すと、少しの間をおいて訊ねる。
「愚痴だけ?」
河野のことが気になるんだね。
解って貰うのは、難しいのかな。
「もちろん。中間管理職の河野の悩みを聞いてあげられるのは、私くらいだから」
応えながら、頬が僅かに引き攣っていくのが解った。
解ってほしいとは言ったものの、そう簡単なことじゃないか。
困ったな……。
どうしようかと頭を悩ませているところへ、聡太が言った。
「行ってほしくない」
思わず、え? という顔をしてしまい、直ぐに取り繕った。
元々ストレートな性格だとは思っていたけれど、まさか、そこまではっきりと言われるなんて思いもしていなかったんだ。
そもそも、最初に話したとおり。
私と河野の関係はきっとこの先も今までのようにいい同僚という感じで続いて行くし、私自身もこういう関係を続けていきたいとおもっている。
河野だって、そのつもりだろう。
それに、こんな中途半端な役職の位置にいる私たちが、何の気兼ねもせずに愚痴りあえるなんて、本当に貴重なことなんだ。
そんな時間がなくなってしまったら、精神衛生上よろしくない。
私がとても困った顔をしていたんだろう。
そんな私の表情が移ったみたいに、聡太の顔も歪んでいった。
そうして、彼の手が私の手を取る。
向かい合ったまま右手を取られ、優しく握られた。
それは、なんだか縋りつかれてでもいるみたいで、胸の中がきゅっと締め付けられていく。