躊躇いと戸惑いの中で
直ぐに届いたビールを半分ほどまでまた一気に煽ると、ジョッキを置いて直ぐにパッと表情が切り替わった。
この顔、嫌な予感。
「で、だ」
「あ。その先、聞きたくないかも」
私は、慌てて手のひらを河野に向けて言葉を遮ろうとしたのだけれど。
「いやいや。頼む、訊いてくれ」
「いやよ。どうせ、その店舗に私も絡めって言うんでしょ」
「さすが、碓氷。話が早い」
「やっぱり。無理だよ。私も近郊店と社員管理で忙しいんだからー」
「頼めるのは、碓氷くらいなんだよ。なっ」
もぅっ。なんてふくれっつらしても、結局拝み倒されて、渋々やることになるんだよね。
あ~あ。
「しょうがないなぁ」
「よっ。太っ腹!」
「その持ち上げ方、間違ってない?」
私の突っ込みにケラケラ笑っている。
「ここ、奢ってよ」
「かしこまりました。お嬢様」
わざと恭しくイタズラに言った河野は、誘った時に見せたドンより空気もなくなり、元気になってきている。
よかった、よかった。
私は安心して、届いたビールに口をつけた。
うーんっ。
キリリと冷えた喉ごしがたまらない。
仕事上がりのビールは、最高!
「相変わらず、好い飲みっぷりだな」
満足そうな私の顔を見て、ビールに口をつけながら河野が笑っている。
「相変わらずって、そんなに時間開いてたっけ?」
「あれだ。新店オープン以来だな」
そっか。
もう、そんなに経つんだ。
細々とした雑務に追われているうちに、随分と時間が経っていたみたい。
それから河野は、新店オープンから今日までのことを機関銃の如く愚痴りまくり、ビールが進む進む。
改善点のことについても延々と愚痴りながらも、ちゃんと前向きな意見も言っていた。
そうやって話しながら何杯飲んだか判らなくなった頃に、ようやく河野のストレスも発散され落ち着きだした。