躊躇いと戸惑いの中で


「碓氷には、責任あるポジションがある。それは、長い時間をかけて少しずつ積み上げ、社長の信頼を得てきた貴重な物だ。それを理解して行動できないやつの言動に、俺は目を瞑るつもりはない」

確かに、今日みたいなことが何度も起こるようじゃ、信頼も何も、あっという間に崩れてなくなる。
同じ様に地道に歩んできた河野だからこそ、余計に心配してくれるんだろう。

だけど、それが続くとは限らない。
ちゃんと話せば、聡太だってきっとわかってくれる、はず。

そんな思いで河野の目を見返してみたのだけれど、私の気持ちは通じなかった。

「そういうわけで、俺は今日これを碓氷に渡すって決めたんだ」

組んでいた手を解き、小さな箱を私の方へと少し押す。

「いい男ぶって、待つのはやめる。大事な女を俺は守りたいからな」
「河野……」

躊躇わないわけはない。
現状、私は聡太と付き合っているのだから。

「乾の事は理解している。公私混同しようがなんだろうが、今碓氷のそばにいるのは、俺じゃなく乾だって。それでも、これを碓氷に受け取って欲しいんだ」

そういって、河野が小さな箱の蓋を開けた。

中からは、眩しいダイヤが顔を出す。
その大きさに、また目が見開いた。

よくいうよね、給料三か月分だって。
もしも、私のお給料と河野のお給料にそれほどの差がないとしたら……。

考えたら、その金額に眩暈がしてきた。

「こんな凄いの……」

思わず正直な感想をもらすと、目の前の河野がふっと笑う。

「驚いてもらえているって事は、それなりの物だって理解してくれたってことかな?」
「だって、見ただけで」

そこまで言って、私は言葉をなくす。
だって、もう何をどう言ったらいいのか解らなくなってきたんだ。


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