躊躇いと戸惑いの中で
「俺が碓氷を想う気持ちは、それくらいのものだって言うことだ」
そんなこと言われても……。
思わず不安げな表情をしてしまうと、河野にもそれが伝染する。
「これじゃあ、不満か? もっと大きなほうがよかったか?」
「そうじゃなくて」
狭間に立たされた私は、現実逃避するように指輪の輝きへと視線を移した。
とても綺麗だと思う。
居酒屋の光でさえも、この指輪に反射してしまえば眩しいくらいだ。
こんな指輪をもらえるほど想われているなんて、どれほど幸せなことか。
目の前でキラキラと光るダイヤを見てから河野を見れば、イタズラに口角を上げている。
とても贅沢な思いをしているのは解っていても、自分のおかれている立場を考えれば自然と眉根が下がるというもの。
「そんな顔するな。俺は、自分でもズルイやり方をしているのは解ってるんだ。こんな風にしてしまえば、碓氷が迷って困ることを知っててやってるんだからな。だから、碓氷は何も悪くない」
「河野……」
そう言ったあとに、もう一度そんな顔をしないでくれ。と言葉をこぼす。
「譲れないって、思ったんだよ。こんなやり方をしてでも、碓氷を譲りたくないって思ったんだ。あんな風に仕事中も関係なしに自分の感情で碓氷を連れ出すようなやつを、俺は認めない。碓氷が積み上げてきた大切な物を、下手したらあいつは一瞬で奪っていくんじゃないかって。想像しただけで、俺の方が不安になってくる。碓氷が頑張って積み上げてきた大切な物を、まざまざと壊されるのを目の前で黙って見ていられないんだよ」
「河野……」
河野の気持ちは、正直とても嬉しかった。
同じように年月を重ねて積み上げた物を持っているからこそ解る感情だって思う。
だけど、大げさに感じるのは、私が悠長すぎるのかな。
確かに、聡太は私を呼び出したし。
仕事中だということも無視した行動をした。
だけど、聡太もきっと解ってくれるはず、と思うのは贔屓目なのだろうか。