躊躇いと戸惑いの中で
「甘いの、あんまり得意じゃなかった?」
私のマンションに二人で戻り、コーヒーの準備をしていたら、聡太がキッチンに向かって声をかけてきた。
「どうして?」
「さっきのアイス、一口食べただけだったから」
「ああ、うん。今日は、甘いのより苦いコーヒーの方かな」
浮ぶ苦笑いをうまく修正できなくて、視線を直ぐに手元へと移す。
甘いのがすごく苦手なわけじゃない。
美味しいと思えるときも、よくある。
だけど、ずっと食べ続けると胸が一杯になってしまうんだ。
その点、コーヒーの苦くて濃いものはいくらでも飲むことができる。
そういえば、河野は甘いのが苦手なんだよね。
営業先からケーキやお菓子を頂くことがよくあるけれど、目だけ楽しんだら私と河野はみんなに振舞って自分たちは遠慮することが多い。
その後、うまい酒でもくれねぇかな、なんて言う河野の言葉に笑ったりするんだ。
同意する私を河野も笑ってみていたり。
なんて言うか、そういう点で、気があうというか。
「また」
「……え?」
コーヒーの入ったカップをテーブルに置きながら、ぼんやりしてしまった。
「今日は、気もそぞろ? 一緒にいるのに遠く感じる」
「あ、えっと。ごめんね」
目の前にいる聡太を通り越して、私は河野の事ばかり考えていた。
指輪を受け取ってしまったせいか、どうしても気がそっちへと向いてしまう。
「河野さんの愚痴を聞きにいってから、沙穂おかしいよね」
聡太が探るようにして私の目を覗き込んできた。
嫉妬。
その目を見ていると、河野の“公私混同”と言った言葉が浮ぶ。
今は落ちいていてるけれど、この先もあんな態度を続けていたら、聡太は河野に切られてしまうかもしれない。
今のところPOP作業に支障をきたすことはないようだけれど、もしも何か多きなミスでも犯してしまったら、きっと河野は黙っていない。
河野という男は、仕事にはとても誠実で厳しい人間だから。
聡太には、社内での行動を改めてもらわないと、何かあってからじゃ遅いよね。
自分の心の内を棚に上げ、私は社内での態度について口にしようとした。