躊躇いと戸惑いの中で
「そんな風に見えてるんだね。私って」
「ん?」
「彼のこと、あんまり好きそうに見えない?」
「それを俺に訊くか?」
意地悪そうに片方の口角をくっと上げる河野に、慌てて謝る。
「あ、ごめん。話しやすいから、ついいつもの感じで」
「まーいいさ。話を振ったのは俺の方だ」
河野はグラスのコーヒーを飲み、氷を口に入れてゴリゴリと砕いて食べている。
「碓氷が仕事人間だからかな。社内でもビシッとしてるから、特にそう見えるのかもな」
「河野だって、私と同じ立場ならそうするでしょ」
社内でデレデレして、仕事に支障をきたすなんて、河野からは想像もできないよ。
「どうかな。俺は、碓氷と付き合ったら、こっそり陰ではイチャイチャしたいけどな」
「っ!!!」
余りの衝撃発言に、椅子から滑り落ちそうになった。
「そんなに驚くなよ」
河野は私のリアクションに満足なようで、ゲラゲラ笑っている。
「いや。マジで。好きな相手目の前にして、毎日指くわえて平気なふりなんかできねぇだろ? 立場もあるし、それなりに自重はするけどな。でも、気持ちって誤魔化しきれないだろ。そういうのが、碓氷には感じないんだよな」
そうなんだ……。
私なりに聡太を想っていたつもりだったけれど、周りからは寧ろ薄情な感じに見えていたのかもしれない。
河野がそう感じているって事は、聡太はもっとずっと私がそんな風に想っていると感じていたかもしれないよね。
こういうのも距離を置きたい原因の一つなのかも。
仕事優先の私は、冷たい女なのかもしれないね。
それとも、私聡太のことを本当は……。
「まー、でも。この前は……」
「この前?」
「あ、いや。なんでもない」
「言いかけてやめないでよね」
言葉を濁す河野をじっと見て続きを待ってみたけれど、結局口を閉じてしまった。
「さて、俺はそろそろ行くは」
「え? もう行っちゃうの?」
一人っきりのところへやっと話し相手ができたのに、また一人になるのかと寂しくなる。
「碓氷さー。休日の昼間にそういうのやめろよ」
「え?」
そういうの?
「引き止められるようなこと言われたら、期待すんだろ」
「あ……ごめん……」
どんな顔をしていいかわからず、顔が引き攣る。
「友達と約束してんだ。時間潰しに、たまたま入った場所で碓氷に逢えてよかったよ」
空のグラスを手に河野が、じゃあな。といって席を立つ。
結局、また一人になってしまい表通りを眺める私は、さっき河野に言われた言葉が胸の中に蟠っていった。