躊躇いと戸惑いの中で
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更に数日が経っても、聡太の様子は相変わらずだった。
給湯室へ向かうたびに、チラチラとPOPフロアの中を覗き見するくせに、なにも行動を起こせないままのグズグズな自分。
そばにいって声を聞きたい。
距離を置くって、どのくらい?
素直に訊けない自分がもどかしい。
聡太に触れたい……。
切ない想いが嵩をましていく。
夕方。
定時が近づいてきた頃に、使ったマグを持って給湯室へ向かっていた。
聡太の姿を視界に捉えたら胸の苦しさが増してしまうから、POPフロアの前を通る時はつい足早になる。
そんな風にして、聡太のことを気にしないように、自分の中から追い出すみたいにしてやり過ごし、ぼんやりと静かな給湯室でマグを洗っていたら、突然聡太が現れた。
その姿を見て、反射的に息を呑む。
「お疲れ様です」
前と変わらない挨拶をしてくる聡太に、私だけが心臓をドクドクとさせ動揺していた。
「おつかれ……さま」
動揺しすぎて、挨拶ひとつ、スラッと出てこない。
聡太は、飲みかけの缶コーヒーの中身をシンクに捨てると、設置されているゴミ箱へと投げ捨てる。
聡太のことを目で追いながら、心の中ではいくつもの問いかけが浮んでは消えていた。
いつまで距離を置くの?
もう、沙穂って呼んでくれないの?
もしかして、本当は嫌いになっちゃった?
年上なんて、やっぱり重たい存在だよね?
このまま、何もなかったみたいに自然消滅なのかな?
だけど、問いかけは一つも口にできなくて、ただ聡太を目で追うしかできない。