躊躇いと戸惑いの中で
倉庫のドアを開けると、誇り臭さが一気に押し寄せてくる。
それを掻い潜るように、商品の詰まる棚の間を抜け奥に進むと河野の姿が見えた。
「河野」
声をかけると、なんだかとても真剣な顔でこちらを見てくる。
もしかして、何かやらかした?
けど、河野がやらかすって、相当だよね。
じゃあ、なに?
近づいて行くと、突然に「すまんっ」と頭を下げられ面食らう。
何がどう、すまん。なのか解らなくて、何も言えずに戸惑っていたら。
恐る恐るというように顔を上げた河野が、すまなそうな口調で話し出した。
「渡した指輪。返してもらえないか」
頭を上げた河野だけれど、申し訳ない。と再び地面に向かって頭を下げた。
指輪といわれて、瞬時にあのキラキラと輝く石が浮んだ。
渡された時には目の前ではずせなかった指輪も、今ではどうしていいのかわからずに引き出しの奥で眠っていた。
いくら河野が持っていて欲しいといっても、つけることを憚るなら、そこに想いはない。
解っていたのに、いつまでも返さず持っていた自分の方が河野に謝るべきなんだ。
「頭を上げてよ。私こそ、いつまでも持っていて、ごめんなさい」
頭を下げると、謝るなよ。と河野が寂しげに呟いた。
「言ったろ。ズルイやり方をしたのは、俺の方なんだ。碓氷が謝ることなんか、いっこもない」
言い切る河野の瞳は力強く、自分の中で決めた思いと真っ直ぐ向きあっているような瞳だった。
「この前、休みの日に碓氷と逢っただろ? あの日、あのあと友達と逢って碓氷とのことを相談したんだ」
話を聞くと。
どうやら、河野はその友達に、早まったことをしたと、きつく咎められたらしい。
「相手に、プレッシャーかけすぎだって怒られたよ」
そんな風に言われても、私が受け取ってしまったのは事実だから、どんな顔をしていいか解らない。
「それに、碓氷とコーヒー飲みながら話をしてて、気がついたんだよな」
「なにに?」
「なんていうか。お前の生き方? みたいなのにさ」
生き方?
なんか、随分と大そうなことを言われている気がする。