躊躇いと戸惑いの中で
向き合う
向き合う
倉庫から戻り、廊下を行く。
少し先に見えたPOPフロアからは既に明かりがなかった。
帰っちゃったか。
一瞬肩を落としたけれど、直ぐに気持ちを切り替え、デスクに置きっ放しにしていたバッグを手に駅を目指した。
給湯室で逢ってから、それほど時間は経っていない。
そう考えてから、さっきかわした感情の篭らない聡太の言葉が胸に痛みを呼ぶ。
けれど、めげている場合じゃない。
ギュッと唇を引き結び、うまくいけば駅に着くまでに捉まえられるかもしれない。
と前向きな考えに持っていく。
会社を出れば、真っ暗な空が重く圧し掛かってくるみたいだ。
その重みを背負いながら、ヒールを操り、足早に駅までの道を行く。
通りは意外と人が多く、ぶつからないようにとそれに気を取られていたら、僅かにできた道路のくぼみにヒールが引っかかり、危なく転びそうになった。
バランスを崩して躓き、コンクリートに手をついたけれど、倉庫で転んだ時のようにどこか打ったり傷を作らなくて済んだ。
もう、助けてくれる人はいない。
自分の足で立ち上がって、自分で何とかしなくちゃ。
パンパンと手を払いながら。
膝を擦りむいた時、聡太ってば凄く心配してくれたな、なんてことを思い出す。
あの時はまだ彼の気持ちも知らなくて、膝の擦り傷を見られることがとても恥ずかしかったんだよね。
こんな時なのに、思い出したことに不意に笑みが漏れる。
そんな風に自然と浮んだ自分の表情で、気持ちが確かになっていった。
彼のことを考えて浮ぶ笑顔に、答えはしっかりと出ている。
距離を置きたいなんていわれてグズグスしていたなんて、馬鹿みたい。
何も言えずにだんまりを決め込んでないで、イヤだって言えばいよかったんだよ。
逢えないなんて、嫌だってはっきり言えばよかったんだ。
恐いものなんて、この年になれば何もない。
元々お一人様だったのだから、当たって砕けたところで元に戻るだけ。
傷つきはするだろうけれど、その時には長年の同士にお酒を付き合ってもらえばいい。
そうして、散々飲んだら次の日にはケロッとして、残業でも何でも、とことんこなしてみせるんだ。
そう、それが私じゃない。