躊躇いと戸惑いの中で
「聡太っ」
商店街の終わる少し手前で、愛しい背中に声をかけた。
私の呼びかけに気づいてくれたのか、聡太の足がゆっくりと止まる。
「聡太」
振り返らない彼の背中にもう一度声をかけた。
夜の闇の中、僅かに間をおいて振り返る彼を、街頭の明かりがぼんやりと照らす。
やっと、顔を見られた。
離れたいといわれてから私が見てきた聡太は、仕事に集中している姿ばかり。
そして、やっと話が出来ても、恐くてまともに目を見られずにいた。
だけど、今はその目を真っ直ぐに見つめられる。
互いの間にある距離を縮めようと一歩二歩と近づく私へ、聡太が穏やかな笑みを向けてくれた。
その表情に、一瞬心がふわっと軽くなるのを感じる。
遠ざけられていないって、感じたんだ。
「なかなか声をかけてくれないから、どうしようかと思ってたんだ」
「え?」
私が追いかけていることに、気づいてたの?
疑問を浮かべる私の顔に向かって、ふんわりと笑みを向ける。
「自分で言っておきながら、ずっと失敗したと思ってた」
躊躇いがちに言葉を零す聡太に、私はまた疑問を浮かべた。
「沙穂は、真面目すぎるんだってこと、最初から解ってたはずなのに。女々しい感情が、あんな言葉を口にさせて。そのくせ、早く追いかけてきて欲しいなんて、勝手なことを思ってた」
「聡太?」
「悔しくて、負けたくなくて。初めはただ必死にしがみついているだけで。それだけで精一杯だった。けど、そのあとには、やっぱり沙穂を想う気持ちが溢れて、何やってんだよって、後悔」
そこまでいって、聡太がゆっくりとこちらへ向かって近づいてくる。
「ごめん。言ってる意味、よく解らないよね。なんて言うか、沙穂が追いかけて来てくれたことが嬉しすぎて、うまく言葉にできないんだ」
聡太は、照れくさそうに呟くと、私の手をとり引き寄せる。
いくら商店街の終わりの方とはいえ、人通りはまだあるし、街灯だって照らしている。
驚きと恥ずかしさに顔を赤らめていると、聡太が耳元で囁いた。
「見せ付けたい」
私が何を考えているのか察知して、イタズラな口調でそんなことを言うから思わず笑みが漏れた。