躊躇いと戸惑いの中で
「それ、訊いてどうするの?」
思わず、問い返す。
「大事なことなので」
「大事な、事?」
私が独り身だってことを確認することが、そんなに大事なことなの?
これが河野だったら、怒りをぶつけたあと確実にランチを一週間分奢らせているところだ。
だけど、相手は新人。
河野相手のようには、ふざけられないか。
「よく、解らないけれど。まぁ、社内の人間誰しも知っていることなので、隠す必要もないから応えるけれど。彼は、いません」
きっぱりと現状を知らせると、乾君は表情一つ変えずに一拍置いてから口を開いた。
「そうですか。ありがとうございました」
いえいえ、どういたしまして……。
って、なに?
お礼を言われる意味がよく解りませんけどー。
心の中で茶化すように思ってみても、どうにも彼に向かって言葉にできない。
なんて言うか、彼のまとう空気が、そういう雰囲気を少しもはらんでいないので、河野とのようなふざけたやり取りにはどうしてもならないのだ。
乾君がどうしてそんなことを訊いてきたのかは解らないけれど、気になっていた答を知ったことで満足したのか。
彼は、再びフラペチーノのストローに口をつけながら発注作業へと戻った。
入ってきたばかりの新人に、独り身だということを再確認させられたようで、私は溜息しか漏れないよ。
なんなんだ、これ。