躊躇いと戸惑いの中で
本社勤務
本社勤務
あの居酒屋で飲んだ日から、僅か三日後。
乾君は河野へ、本社のPOP勤務になることを連絡してきた。
居酒屋で飲んだ翌日、私が店舗へ様子を見に行った時には、まだ店の仕事が楽しそうだったから、本社勤務は難しいだろうと踏んでいたけれど。
驚きのスピードに、一体どんな汚い手を使ったんだ? と河野に詰め寄ってみる。
「人聞き悪りぃな。つか、実のところ、なんもしてないんだよ」
「嘘言わないでよ。河野が何もしてないのに、こんな直ぐにこっちへ来ることを決めると思う?」
私は、腕を組み猜疑心丸出しで河野を睨みつける。
「マジだって。そろそろ高い寿司か天ぷらにでも連れてって口説き落とそうかと考えてた矢先に、向こうから宜しくお願いしますって言ってきたんだよ」
「じゃあ、その高いお寿司と天ぷら、私に奢ってよ」
「話がすり替わってる」
呆れた目が私を見るので、思わず目をそらしてしまった。
「そんなわけで、ほとんど手間もかからず、乾をGETだ」
意気揚々と拳を握り締めている河野だけれど。
「いいのかな」
「何が」
「だって、店長になりたいって言ってたのよ。あの日の翌日だって、発注作業を楽しそうにやっていたし。それをたった三日で本社になんて、ちょっとうまく行き過ぎじゃないの?」
「土日祝日の休みに惹かれたんじゃねーのか? それに、本社は給料の上がりもいい」
「そうだけど」
「不満そうだな」
「そうじゃなくて。なんて言うか、不安」
「不安てなんだよ」
「あんなにやりたがってた店長を、こうも簡単に諦められるのかってね。本社に来たはいいけど、直ぐに辞めちゃったりするかもよ」
「恐えーこというなよ」
「考えすぎならいいんだけどね」
私がうーんと、考え込んでいると、河野がじっと私を見てくる。
「何?」
私は、訝し気に河野の顔を見返した。