躊躇いと戸惑いの中で
新入社員




    新入社員




ゴールデンウィークが間近に迫ったこの時期は、店舗は忙しさを増していた。
長期の休みになる前の、書き入れ時だからだ。

それと同時に、四月に入社したばかりの新人が仕事の辛さに値を上げる最初の時期でもある。
この時期に辞めていく者は、少なくない。

本社からほど近くにある駅前型の数店舗は、新人研修にはよく使われていた。
新入社員は、このコンパクトな駅前型の店舗を経験し、仕事のノウハウを学び、それから少しずつ大きな店舗へと移動して行く。
そんなわけで、ここにも一名、新人が働いていた。

「お疲れさまー」

CD販売を手がけている店舗に入り声をかければ、レジ金チェックをしていた新人社員が、驚いて顔を上げ背筋を伸ばした。

「おっ。お疲れ様ですっ」

そんなに緊張というか、警戒しなくても……。

とは思っても、本社の人間=監視的な数式が店舗間では出来上がっているので仕方ないか。

私が新人の頃にも、本社の人間が来たときには何を言われるかとビクビクしていたっけ。
まー、よくないところがあれば次々と指摘していくのだから、そう思うのは当然だろう。

「これ、頼まれてた備品。店長は?」

備品の納まる紙袋を掲げて見せると、ビシッと背筋を伸ばす新人君の姿は、大卒の初心な雰囲気がまだまだ抜けきれていない。

「ありがとうございます。店長は、バックヤードでシフト管理してると思います」

カッチカチの態度が、ある意味可愛らしい。

「そう。で、君は、どう?」

訊きながら、スーツの名札に視線を送る。

「もう慣れてきた? 乾君」
「はい。やっぱり、この仕事面白いです」
「それは、よかった」

“やっぱり”が何処にかかるのかは深く追求せず、店長の姿を求めてバックヤードへ向かう。


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