躊躇いと戸惑いの中で
情けなさに溜息を漏らしながら考えていると、もらったドリンク剤を握り締めた河野が珍しく優しい言葉をかけてくれた。
「大丈夫か? 歩けるか? 血が出てるし、ちゃんと洗って消毒したほうがいいぞ」
いつもにない優しい気遣いに戸惑って、どうしたの? なんて顔つきをしていたら憎まれ口が飛んできた。
「その年でその傷じゃ、益々嫁に行けなくなるな」
言ってクツクツと笑っている。
ムッとした顔を向けている私へ俺様対応。
「しかたねぇから、送ってってやってもいいぞ」
「何、その上目線」
目を細めて河野を睨むと、ケタケタと面白そうに笑っている。
まったく、私をからかうのが生きがいにでもなっているのかもしれない。
「嫁に行けないなんて人の事言ってるけど、河野だって独り身じゃない」
「男は三十過ぎてからが脂のノリどころだからな」
得意気な顔が憎らしい。
だけど、確かに女とはそこが随分と違うのよね。
女は三十を過ぎれば、あとは下降していくだけ。
考えると、溜息しか出ないよ。
項垂れる私を河野が茶化しながらも気遣う。
「そんな足で、電車には乗れないだろ? 送ってやるって言ってんだ。ありがたく思えよ」
人の足元でも見るみたいに、ほらほら、どうする? と面白がっている。
全く、性格悪いんだから。
「今日は車で来てるし、腹減ってるから弁当ついでだ」
「じゃあ、送らせてやるよ」
あごを突き上げて強気な発言を返すと、お腹に手を当ててケラケラと笑う。
「了解」
我儘な女には手を焼くよ、とわざとこぼす河野は、作業を中断して車のキーを取りにいった。