躊躇いと戸惑いの中で
ウダウダと立ち止まったままくだらないことを考え込んでいると、不意に背後から肩をひとつタンと叩かれ飛び上がる。
「ひゃっ!」
「あ……。すみません。そんなに驚くとは思わなくて」
急に後ろから肩を叩いたのは、乾君だった。
「おはようございます」
「お、おはよぅ」
引き攣った顔のまま挨拶を返すと、不思議そうな顔で見られる。
当然か。
玄関先でいつまでも動かずにいる上司に挨拶をしただけで、こんな反応するなんて思いもしないよね。
「中、入らないんですか?」
「あ、うん。入る、入る」
乾君に訊かれて、根の生え始めていた足がやっと動いた。
「足、平気ですか?」
「え? 足?」
根っこでも見える?
「昨日の傷」
ああ、膝のことか。
さすがにスカートはしばらく履けないな、と今日はパンツスーツにしていた。
しかも、会社が近づくにつれ、河野のことに気を取られて膝の傷のことなどすっかり忘れていたくらいだ。
「大丈夫、大丈夫。スカートはしばらく無理だけど、平気よ」
気もそぞろに返事をする私は、乾君と一緒に勢いで社内に踏み込んだはいいけれど、いつ河野に出くわすかと思うと気が気じゃない。
「そうですか。……あの」
「ん?」