躊躇いと戸惑いの中で
店内に入り、サンドイッチや飲み物を手にレジへ並ぶと、直ぐ後ろに乾君も立った。
乾君の手には、カツ丼とプリンが握られていた。
カツ丼は梶原君にだろうけれど、プリンはどっち?
梶原君でも乾君でも、プリンて似合わないよね。
二人がプリンを食べている姿を交互に想像して、笑いそうになっていたら。
「碓氷さん、河野さんと何かあったんですか?」
っ!
油断していた。
プリンに気を取られすぎていた。
しかも、忙しさに敢えて忘却していたできごとを訊ねられて、思わず息を呑む。
「どうして?」
河野がらみの質問に、必死に動揺を隠してなるべく平然とした顔を向ける。
「今朝、河野さんの名前出したら様子がおかしい感じがしたので」
「そうかな?」
俯き笑いうことで表情を隠し、レジの順番が来て支払いを済ませた。
乾君て、観察力に長けてるな。
それとも、私が解り易いの?
なんにしても、この質問はこれ以上やめてほしい。と願いつつ、外に出て一緒に会社を目指して歩く。
「パンツスーツも似合いますね」
乾君は、サラリと軽く褒め言葉を口にする。
軽そうな顔立ちでもない彼の口からそんなセリフを言われると、実は違う誰かが腹話術さながらに後ろから言ったんじゃないかと、背後を覗き込みたい衝動に駆られるくらいだ。
「無理しなくてもいいよ」
きっと気を遣っているんだろう、と思わず苦笑いがこぼれる。
「気は遣ってません。正直にそう思ったので」
「え? あ、そうなんだ。ありがと」
よく判らないけれど、褒められるのは嬉しいかも。