躊躇いと戸惑いの中で


その二人の間に、なんとも言えない重たいような張り詰めた空気が流れている気がするのは気のせい?

何、この二人。
何かあったの?

あれだけPOPに入れると張り切って乾君を誘っていたのに、なんか空気悪いんだけど。

二人の視線の間に挟まれていると、なんとも居た堪れなくなる。
その空気を、ある意味壊したのは、河野の冷たいひと言だった。

「乾。備品貰ったら、さっさと戻れ」

その言い方は、乾君を本社に誘った時とは雲泥の差だった。
乾君は僅かに間を置き、一瞬だけ何か言いたそうにしていたけれど、直ぐに表情を元の冷静な
顔に戻した。

「わかりました。じゃあ、碓氷さん、また」
「うん。頑張って」

声をかけた私に少しだけ表情を崩して笑みを見せると、乾君は踵を返した。
珍しく強い口調で乾君に言った河野は、彼の姿が見えなくなるまでその姿を追うように見ている。

乾君が廊下を行き、姿が見えなくなると、気持ちを切り替えたように河野がいつもの明るい調子で口を開いてきた。

「まだ帰らないのか」
「そうね。河野は?」

「俺は、今日も帰れそうにない」
「え。まさか、昨日からお風呂に入ってないとか言わないでよ」

「あほ。ちゃんとシャワー浴びに帰ってるって」

そんな風にお茶らけているけれど、さっき乾君にとった態度が私は気に入らなかった。

「あ、そう。ていうかさ。昨日から、なんか変だよ」

私は、渋い顔を向ける。

「乾君への今の言い方もそう。サボってたわけでもないのに、ちょっときつくない?」
「あいつも、きっと薄々気づいてるさ」
「は?」

河野の言っている意味を理解できなくて、首を傾げてしまう。

何に薄々気づいているというんだろう?


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