躊躇いと戸惑いの中で
乾君と、終電少し前の電車に揺られる。
ギュウギュウ詰めではないものの、つり革に掴まるのが精一杯な状態の車内だ。
「碓氷さん。駅降りてから、家は近いですか?」
「まあまあ近いかな」
「解りました」
それから少しして、最寄り駅のホームに滑り込んだ電車を降りると、乾君も一緒に降りてきた。
「あれ? 乾君もここ?」
「あ、いえ。心配なので、家の前まで送ります」
「え。いいのに。今ならまだ電車あるし、乗ったほうがいいよ」
「いえ。女性を一人で帰すのは、心苦しいです」
じょ、女性?
私のこと?
ああ。
なんだろう、この紳士的な感じ。
しかも、久しぶりに女扱いしてもらって、なんだかとても嬉しいんですけど。
おかげで、つい後輩の気遣いに甘えてしまった。
「ありがとね」
改札を出て、乾君と商店街を並んで歩きながらお礼を言った。
「今度、またフラペチーノ奢るよ」
「ありがとうございます」
乾君がおかしそうに片方の口角を上げる。
終電間際の商店街は、開いているお店もポツリポツリと少なくて、街頭の明りがやけに煌々と灯っていた。
その灯りでできた自分の影を何度も追い越して行くうちに、ふと河野の乾君に対する態度が気にかかった。