躊躇いと戸惑いの中で
「ねぇ。気のせいかもしれないんだけど。河野となんかあった?」
歩く足を止めることなく訊ねると、乾君が躊躇うことなく口を開いた。
「明確に、なにかがあったわけではないです。ただ、目的というか。想うところが一緒だって、お互いに気がついただけです」
「おもうところ?」
訝しんだ顔で乾君を見ても、それ以上は何も言わない。
河野といい、乾君といい。
何を考えているのか、さっぱり解らない。
「碓氷さんは、いつも通りでいてください」
「え? あ、うん」
そりゃあ、いつも通りでいるけれど。
疑問は、疑問のまま、解決してくれることはないってことなのね。
それ以上の説明はないとばかりに、乾君が口を閉ざす。
程なくして、自宅マンション前に着いた。
「わざわざ、ありがとね。終電、間に合う?」
「大丈夫です」
乾君は、時間を確認することなく返事をした。
「じゃあ。また明日」
「はい」
一人駅へと戻って行く乾君を見送り、私はやっと帰った自宅のベッドに倒れこんだ。