躊躇いと戸惑いの中で
「梶原、明日までだったな」
「そうね。送別会やらないって聞いてる?」
「ああ。本人の強い希望だろ」
「うん。最後まで周囲に敢えて馴染もうとしない態度をを貫き通すみたいね」
「梶原らしいよな」
「だね」
梶原君が居なくなったら、長く勤めてくれているアルバイトの子達と、乾君とで全店のPOPを請け負うことになる。
新店で出来上がったPOPを見た限りでは問題ない気がするけれど、不安がないとは言い切れない。
特殊な職種とはいえ、新卒の彼に一つの部署を任せることになるのだから、安心してばかりもいられない。
「乾君、大丈夫かな?」
「気になるか?」
「そりゃあ、そうよ。あの子、入ってまだ三ヶ月よ。絵に関しては本社にいる社員よりも知識やなんかはあるかもしれないけれど。アルバイトも引っ張っていかなきゃならないし。あの部署で上に立つことになるんだから、本人だって不安だと思うけど」
「碓氷が気にすることじゃねーよ」
「私も一応総務統括だからね。勝手にやって、なんて無責任な態度じゃいられないよ」
「碓氷の責任感の強さはよく解った。けど、あそこは俺がみるから、お前は他のところにちゃんと目を配ってやれ」
「他って。河野こそ既存店もあるし、オープンしたとはいえ、新店だって管理しなくちゃいけないでしょーよ」
「いいんだよ。あの部署は、俺がみる。社長にもそう話しておくから」
結局、断固として自分がPOPの面倒をみると譲らない河野だった。