躊躇いと戸惑いの中で
給湯室に入って行くと、直ぐに乾君が口を開いた。
「僕には、気を遣わないで下さい」
「え?」
思っていたのと違うことを言われて、油断した表情になった。
「僕は、碓氷さんに誘われたら嬉しいので」
そんな風に言われても、その奥にある本心が見えにくくて、つい軽く返してしまった。
「お世辞は、いいよ」
小さく笑って見せても、乾君の表情は崩れなかった。
あれ?
お世辞じゃ、ない?
なんとも形容しがたい、靄のかかったような空気が二人の間に流れる。
何だろう、この感覚。
彼が何かを求めている気がするけれど、それがはっきりとは判らない。
「いつも一緒に居るのを見るのは、つらいです」
靄の正体を掴みきれないでいると、乾君がそう言い出した。
つらい?
「河野のこと?」
私の問いかけに、ひとつ頷いて見せる。
つらいって、どういうことなんだろう?
河野といると、お遊びでもしているように見えるんだろうか?
別に仕事を遊びのようにして楽しんでいるわけじゃないんだけどな。
まぁ、いつも一緒にいる時はふざけあっていることが多いから、はたから見たら遊んでばかりいてちっとも仕事をしていないなんてとられているのかもしれない。
けど、ちゃんと結果は出しているのよ。
だから、今の地位を維持できているわけだし。
それにしても、そんな風に捉えられているんだとしたら、ちょっと残念。