躊躇いと戸惑いの中で
「ごめん。色んな意味で、今の私ついていけてないの」
お願いだから順を追って説明して、というとそれもそうかと河野が一旦息をついた。
「碓氷の事は、お前自身が感じている通り、いい仲間だって思ってたし、今もそう思う。一緒に居て、こんなに楽でいられる女も珍しいと思うよ。こんな風に俺と碓氷は、ずっと今の会社でやっていくんだろうって、漠然と思っていた事に間違いはない」
なのに、どうして急にあんな。
私は、言葉にしないまでも、表情で訴えかけた。
「急にキスしたことは謝る。だけど、嫌いだったらもちろんしない。碓氷のことを好きだって確信したから、したんだ。だから、急いだ事には謝るけど、したことについて謝るつもりはない」
なんだか、ややこしいことをつらつら並べているけれど、結局の所、謝るつもりはないってことよね?
「何ならここで指輪を取り出して渡したいところなんだが。生憎、新店で駆けずり廻っていて、ゆっくり探している余裕がなくてな、すまん」
「ゆ、指輪!?」
驚きながらも、キラキラと輝くダイヤのついた婚約指輪を、バッチリ想像している自分にも驚いた。
目を丸くして、やっぱり話の展開についていけない女が目の前にいるというのに、河野は相変わらず落ち着き払った様子で、今度は唸るようにして腕を組んだ。
「厄介なのは、乾だ」
瞬間、昨日のキスが過ぎったけれど、表情には出さないように気をつけた。
いくら乾君とそんな雰囲気になったからとはいえ、プロポーズしてきた目の前の相手に漏らしていい内容じゃない。
「どうしてここに乾君が出てくるのよ」
とりあえず指輪の事は横に置き、乾君の名前が出たことに疑問をぶつける。