躊躇いと戸惑いの中で
「けど、あの時。倉庫の中で乾に迫られたりしてたんじゃないかって考えたら、な」
「はい?」
河野の勘繰りに、語尾が上がる。
「キスでもされてたんじゃないかって、想像したら」
「あのね。あるわけないでしょ。だいたい、キスしてきたのは自分の方じゃない。しかも、強引に」
語尾を強めに言って非難したものの、考えてみれば、倉庫じゃなくて給湯室でキスしたんだっけ。
「じゃあ。碓氷は、乾のことに関して何も感じてないと受け取っていいんだな」
念を押すように言い切られると、何故だか心が落ち着かなくなる。
乾君からのキスは、笑って済ませられるような若気の至りだと思ってはいるけれど、改めて訊かれると本当にそうなのか不安になってきた。
私自身、あの状況で乾君から迫られても少しもイヤだと思わなかったし、寧ろその雰囲気に酔いしれていた。
河野の時にはあんなに驚いて動揺したというのに、乾君のときはやたらと冷静だった。
年下だから、気負うこともなかった?
年の功?
なんにしても、よくある間違いだろうと高をくくっていたことには違いない。
それにしても、彼は何処まで本気なんだろう?
年上をからかえるタイプには見えないし。
本気……なんて言葉自体、当てはまらない?
けど、河野と一緒にいる私を見るのがつらいって言ってたな。
乾君は、本気でそんなことを思っているんだろうか。
いやいや、やっぱりピヨピヨでしょ。
こんな年齢の私相手に、好きなんていってくれるのはありがたいことだけれど、血迷ったとしか思えない。