躊躇いと戸惑いの中で
入った居酒屋は盛況で、カウンター席しか空いていなかったのだけれど、乾君がそれでも構わないというので、二人並んで座った。
「今日も一日、お疲れ様でした」
ひと言添えてビールの入ったグラスを持ち上げると、乾君もグラスを掲げる。
ゴクゴクと喉を鳴らして飲む仕事上がりの一杯は、やっぱり最高だわ。
「おいしそうに飲みますね」
「だって美味しいもん」
勢いで子供みたいに応えてから。
しまった、と若干の焦り。
飲んでいる相手は乾君だったというのに、河野相手のように応えてしまっていた。
慌てて取り繕おうと、笑って誤魔化す。
「仕事終わりって、気が緩むね」
ははっ。なんてとってつけたような笑いは自分でもわざとらしすぎて頬がつる。
「そうですね。そんな碓氷さん、可愛いです」
横顔を見つめながらのまたまたストレートな言葉に、むせ返りそうになった。
これは、まったくどうしたらいいのか。
好きだと言われれば悪い気はしない。
しかも、勢いとはいえキスだってしてしまった。
だけど、こんな私に本気になるなんて、おかしいよ。
「ねぇ。乾君。そのー、君の気持ちはよく伝わってくるんだけど。私を相手にしても、仕方ないって言うか」
「どうしてですか?」
真面目な顔で問い返されてしまうと、言葉に詰まる。
「私、上司で結構な年上だよ」
年上ってところを自分で言うのもなんだけれど、若い子にはここのところは、はっきり言っておかないとね。
つき合ってみたら、やっぱりおばさんじゃんなんて思われるのは、傷つくというもの。
というか、付き合う前提で考えるのは、おかしいか。
「年上とか、関係ないです」
「え……。ああ、そうなんだ」
うーん。
これは、手強い。