躊躇いと戸惑いの中で
「碓氷さんは、僕が嫌いですか?」
私が必死になって張り巡らせた壁を容赦なく破壊して突き進んでくる乾君は、純粋そうな瞳で私の目を覗き込んでくる。
甘えるような感じてはけしてないタイプの彼からそんな瞳で見られてしまうと、意識しないように努力するのが大変だ。
「嫌いとかじゃなくてね。私の場合、年も年だから、ほら、そのー。普段から結婚ていうのが纏わり付いてきているわけよ。親にもせっつかれているし、周囲もそんな目で見ているだろうし。乾君は、まだまだ若いんだし。そんな女を相手にするよりも、もっと恋愛を楽しめるような同じくらいの子の方がいいんじゃないかなって」
私の言葉にじっくりと耳を傾けて聞くと、乾君は少しの間黙りこくってしまった。
やっぱり。
若い子には、結婚なんて想像もできないことなんだよね。
しかも、相手は七歳も年上の上司だよ。
どうせ結婚するなら、若くてピチピチの方がいいよね。
あ、今時はピチピチなんて事は言わないのかな。
ああ、そんなこともわからない時点で、もうジェネレーションギャップよね。
好意を抱いてもらえて感謝だけど、やっぱり無理だって。
同世代の子とお付き合いして、もっと恋愛という物を謳歌したほうがいいのよ。
「ほら、同期で誰か居ないのかな? 郊外に回されちゃったけど、可愛い女子社員がいたじゃない。
上野さんだったっけ。彼女なんてどう?」
私の提案に、乾君は眉間にしわを寄せる。
「それって、僕のこと、遠ざけようとしてます?」
「え……」
「他の人勧めたり、結婚の話したり」
あれ、なんか気分を悪くさせてしまったかな。