躊躇いと戸惑いの中で
優先順位を頭の中で整理していると、入れ替わるように今度は河野が現れた。
というよりも、デスクは同じフロアにあるのだから、現れて当然なのだけれど。
「はよー」
まだ眠そうな顔をして、ネクタイが少し曲がったままの河野が挨拶をして席に着く。
「ダルそうじゃない」
エリアマネージャーらしからぬ、だらけた雰囲気を朝から醸し出す河野に思わず笑いがこぼれる。
「昨日、飲みすぎた」
「飲みすぎ? 珍しいね」
河野が飲みすぎでへばっているなんて、あまりないことだった。
新人の頃はよく二人でそんな状況にもなったけれど、年を重ねていくにつれ自分の飲み方というものを理解するようになったから、お酒に飲まれるなんてそうそうない。
その河野が酒に飲まれるなんて、どんな飲み方をしたんだろう。
頭にネクタイでも巻いて、年甲斐もなくドンちゃん騒ぎでもしたんだろうか。
河野がふざけてはしゃぎすぎている図を勝手に想像し笑いを零していると、とても恨めしそうな顔を向けられた。
「ある女がプロポーズに待ったなんかかけるから、思わず親友に愚痴ってたらこの有様だ」
椅子の背もたれに体を預けて溜息をこぼす河野の言葉に、ヘラヘラしていた笑顔か思わず引っ込む。
思い描いたドンちゃん騒ぎの飲みの席はあっという間に消え去り、親友にひたすら愚痴り飲みまくる河野の図に差し替えられた。
想像しただけで、胃の辺りがきゅっとなる。
「ごめん……」
「謝るなよ。まるで断られた気分になる」
溜息交じりに言われて、目を見られない。
俯き加減でいると、丁度社内電話が鳴り、河野が呼ばれた。
どうやら、既存店の店長からのようだ。
「朝からお呼びだ。行ってくるか」
出社したかと思ったら、私に恨めしい顔を向けただけで直ぐに店舗へといってしまった。
だけど、河野が本社から居なくなったことにほっとしている自分がいる。
昨日の今日で、河野になんて言えばいいのか解らないからだ。
待ったなんてかけておきながら、乾君となんて……。
私が河野の立場なら、殴りかかっているかもしれない。
頭も心も整理して、ちゃんと河野に話をしなくちゃいけないよね。