アイツと共に、未来へ
オギワラは恵まれた人間だと、ずっと思っていた。
両親がいて、両親にちゃんと愛情を与えられている。すごく恵まれた人間だと。
だけど、俺とそんなに変わらない、悩みを抱えている人間だった。

二人でオギワラの家に向かった。家に着くとオギワラは自分の寂しさの訳を話してくれた。
この春に両親の長期海外赴任が決まり、彼女は5月頃からこの家に一人暮らししていた。多忙な親となかなか連絡をとることができず、元々友達付き合いが多い方ではなかったらしい彼女が寂しさを埋める手段は当時付き合っていた彼氏に縋ることだった。

「だけど、振られちゃった。うじうじジトジトしてた私がうざったくて、見るに堪えなかったんだろうね」

そう言ってオギワラは笑った。苦笑いではない。あの笑いは自分が辛いことを隠そうとする笑いだ。本人が一番辛いであろうに、俺に心配をさせまいと気遣っているのだ。自分の心を偽って無理やり明るく振舞おうとしている。その姿が何ともいじらしくて見ていられなかった。考えるよりも先に身体が動いていた。一歩一歩アイツとの距離を縮めてアイツの近くまで行った。心なしかオギワラの目は潤んでいるようにも見えた。そんなオギワラを見たら衝動が押さえられなくなった。

そして、俺はアイツを抱きしめた。

身体が勝手に動いていた。特別な想いがあったわけではない。年上ということも眼中に無かった。性別や年齢の違いなんてどうでもよくて、ただただ目の前で寂しさに泣きそうになっている「カワイソウ」な女の子をただ見ているだけなんて出来そうもなかった。

オギワラは黙って俺の背中に手を回してきた。思っていたより強い力だった。

「辛い時に無理して笑わなくてもいいじゃねぇか、こっちまで辛くなるだろ」

俺がオギワラの耳元でそう呟くとと、

「ごめんなさい」

彼女のか細い声が聞こえた。声が震えていた。やはり、泣きそうになっているらしい。彼女の華奢さが俺の腕を通して伝わってくる。こんなに細い身体で今まで寂しさに耐えてきたのだ。

そっと俺の右手をオギワラの背中から頭へ移動させ、頭を撫でる。細いサラサラの髪の毛だった。

しばらく、俺はオギワラを抱きしめ続けた。だけど、今日俺が本当に抱きしめていたのは「カワイソウ」な「俺自身」だったのかもしれない。



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