アイツと共に、未来へ
 女の家は本当に河川敷の近くにあった。おそらく歩きで5分もかかっていないだろう。家は豪邸とまではいかないものの家主の裕福さを物語るには充分な趣きのある和風の家だった。門の表札には『荻原』と書いてあった。

「お前、オギワラっていうのか?」

そういえばまだ名前を名乗り合っていなかったな、と思いながら俺は尋ねた。

「そう。荻原、荻原 慧っていうの。君は?」

女、いやオギワラはそう答えた。こっちが聞いたのだから俺も答えなくてはと思う。

「俺は安田 伊織だ。」

「伊織くんね。さあ、中に入って。」

そう言って家に招き入れられた。玄関で靴を脱ぐと一番最初の部屋に案内された。立派な内装で床は畳だった。家

にも寮にも畳の部屋がなかったので、新鮮な感じがした。

「なんか食べられるもの用意するから、好きにリラックスしてて」

オギワラはその言葉を残して台所へ消えた。俺は畳に腰を下ろして、部屋中を見渡した。広い部屋、高そうな家
具、オギワラの家は金持ちだなぁ、と思った。けれど、それだけじゃない。ここには「家族」が暮らしている。そんな暖かさを感じた。俺が望んでも与えられることのなかったモノがここにある。そう思って寂しさと羨ましさがこみ上げた。俺の目線の先には写真立てが飾られていた。写真の中でオギワラは両親と思われる人物とおもいっきり笑っていた。
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