妄想女と浮気男
私は、助手席のシートを倒して、横になっていた。
男が自販機で買ってきてくれたスポーツドリンクをぎゅっと握りしめながら……。
車内はエアコンが効いている。
涼しくて、心地よい。
「俺、ここのファミレスでバイトしてるんだ」
隣で男が言った。
私は男を見る。
「……そうなんですか……」
だから、ファミレスの駐車場に車があるのね。バイト帰りだったのね。
私はゆっくりと起き上がった。
駐車場はすいている。土曜日だが、昼時を過ぎているからだろう。
「もう大丈夫なの?」
「はい……」
だいぶ楽になった。
「そっかぁ、よかった」
優しく微笑む男。
整ってて……綺麗な顔ね。
「ってか、君、名前は?」
「……本村璃子(もとむらりこ)です……」
私がそう言うと男は、なんでフルネーム?と言って、軽く笑った。
名前を聞かれる事なんて滅多にない。だから、答え方なんてわからない。
「璃子って、面白いね」
呼び捨て……。
「俺は杉下充(すぎしたみつる)」
充君って言うんだね……。