呪いの着メロ
 全身が脱力感に見舞われた俺は、しばらく動く気がしなかった。

 だが、手に握られているケータイがまだ通話状態なのに気づいて、慌ててそれに出る。

「も、もしもし! そ、その、あの・・・・・・」

 俺は少し興奮気味にあの歌声に主の名を言う。

「き、霧谷か?」

『・・・・・・そう』

 やっぱり。色々訊きたいことがある。長い電話になりそうだ。

 一つ一つ整理していこう。

「えっと、なんで俺のケータイに電話を?」

『あなたが危ないと思ったから』

 エスパーか、お前は。

「なんで、わかった?」

『彼女が教えてくれたの』

「彼女?」

『三嶋さん』

 三嶋だって!? どういうことだ!?

 今しがた襲っておきながら・・・・・・

 俺が困惑していると、霧谷が『聞いて』と言って、少し間を置いてから、自分でもどう話していいか分からないといった感じで、徐に話し始めた。

『・・・・・・・思い出したの。私の左目は・・・・・・彼女に奪われた』

 そ、そうだったのか・・・・・・。

『私も以前に午前零時に『呪いの着メロ』に出てしまった。当時は全然知らなかったから』

「よく、片目だけですんだな」

『運が良かった。片目を奪われたショックと痛みで、私は飛び降りてしまったから。五階のマンションから・・・・・・』

「・・・・・・よく、無事だったな」

『それも運が良かった。たまたま、下の木がクッションになって、重傷は負ったけど、命に別状はなかった。けど、記憶は失った』

 とてつもない恐怖とか感じると防衛本能が働いてそうなるって聞いたことがあるな。

『思い出すきっかけになったのはあの本を初めて読んだ時。少し読んでから気分が悪くなった』

 あの時、霧谷の様子がおかしくなったのはそのせいか。

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