私少年漫画家してます
締め切りの次の日は1日漫画を書かない。学生である私に川岸さんが出した条件でもある。
週刊にとってこれはなかなか痛手なんだけどそのためにも私は他の漫画家さんより一週分先のものを書いている。
もし万が一なにかあってもストックが溜まっているように、だ。
「いってきまーす。 」
デビューのときに母から昔使っていたアトリエ代わりの家を貰い、一人暮らしを始めた。いってきます、なんて言ったってもちろん声は返ってこない。
「おはよー京香!昨日もまたさぼったでしょー」
「おはよ。ちょっとだるくて」
別に勉強に夢中でもないし部活もしてないし。単位が足りるぐらい適度に休む私は完全にサボり魔扱いだ。
「ノートいる?昨日のやつ。」
「あーいらないや。テスト前にまとめたやつちょーだい」
「またー?わたしのことも考えてもらわないと!」
ちょっとのわがままを笑って聞いてくれる女の子友達、前橋ゆりな。
こんな男勝りの私とは正反対の可愛い女の子。ふわふわの髪が今日も歩くたび揺れている。
「あ、王子だ。」
「王子?」
教室に向かって廊下を歩いていた途中、ゆりなが声をあげた。
いや、王子って。王子はそもそも高校に通ってないでしょう。名前だとしてもキラキラネームすぎるでしょう。
「え?京香しらないんだっけ?あの人。」
彼女が指を指した方に視線をうつす。周りの女子も同じようにそちらをみている。
視線の先には背の高い、すこしだるそうにあるく一人の男子生徒がいた。
「なに?有名人なの?」
「そーだよ!かっこいいって女子のなかで話題のひとつ上の先輩。江波和樹先輩。」
「なんで王子?」
「わかんないけど、かっこいいから?きゃー王子さまっ!!って感じでそう呼ばれてるよー」
かっこいい、ねぇ。
正直、それもすこしわからなかったりする。何かのために必死になって、戦ったりするからかっこいいのであって、あぁやって歩いているだけの人をみてかっこいいとは思えない。
いや、まぁ顔は整ってるなぁって思うよ?あ、でもそれがかっこいいなのかな…
「ゆりなもあぁいうひとがかっこいいの?」
「うん、かっこいいと思うよ?でも付き合いたいとは思わないかなぁ」
「なんで?」
「だって、王子…江波先輩、無口らしいし。全然話さないんだってさ。私おしゃべりな人じゃないとやだ。」
そういうもんなのかな。まぁゆりなの元カレをかんがえると確かにおしゃべりばっかかも。まぁ続いてるかどうかは別として。
もう一度ちらりと江波先輩を見る。
周りの女の子も見ているだけで先輩に近づこうとはしない。
それどころか男友達すら近づこうとはしていない。
少しだけ、目があった気がした。