私少年漫画家してます



チン、と音がしてエレベーターが目的のフロアにつく。川岸さんは紳士的な対応でまず私を先にエレベーターから降りるように促し、それに従った私に続くようにして降りた。





「こっちだよ。」





回りをキョロキョロしていると苦笑混じりの声でそう言われた。大人しくついていく。

歩きながらも回りを見渡すとポスターが少年誌のフロア同様たくさん張られている。


あ、あの作品知ってる。たしか映画化したやつ?あ、あれもドラマになったやつだ。

って、あれ…?これ、少女漫画?






「ねぇ、川岸さん、ここ…」



「中高生向け少女漫画、月刊ひまわりの編集部だよ」





いくら少女漫画に疎い私でもさすがに知っている。あの、ひまわりの編集部。
たしかに言われてみれば10階とは違って、どこか女の子らしさが現れている場所だと思う。


って、いやいやいや。
なんで少女漫画?
私は少年漫画家であって、それを誇りに思っている。別に少女漫画をとやかく言うわけはないけどこれだけは譲れない!





「ねぇ、川岸さん。私、」




「京香ちゃん、僕言ったよね君の漫画には決定的に足りないことがあるって。」




「は、はぁ…」






今ここでその話を持ちだしてくるんだ。
少しだけトーンが落ちた声に少し驚きながらも、川岸さんの話を待つ。
やっぱ、自分の漫画のことだし気になるし。







「君の書く漫画は確かに魅力的だ。週刊誌らしく必ず毎週見せ場をつくり、バトルシーンのかっこよさはもちろん、キャラクターの魅力も伝わってくると思う。」







川岸さんは私から目をそらさずにそう言う。もちろん、私も目は逸らせなくてひまわりの編集室へ続く廊下でお互い見つめ合う形になってしまい、少し恥ずかしい。






「でもね、君の漫画にはいないんだよ…」




「いない?」





ゴクリと、唾を飲み込んでその先の言葉を待つ。





「主人公に恋する可愛い女の子ヒロインがいないんだ」




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