天使の奏でる音
今回の帰国は、バンド時代にお世話になった有村の父にある女性の為に楽曲提供を頼まれた為であった。
有村の父は、colorの所属する事務所の社長だ。
アメリカで静養生活を勧めた人であり、恩人でもある。
彼の頼みはお世話になってることもあるので叶えたいが、肝心の音が出てこないのだ。
「はぁ…」
思わず溜息をつく。
運転しながら、有村が苦笑している。
「まぁ本人に会ってみてください。会ってみたら、奏さんのなかに音が生まれるかもしれないですしね。」
「だといいけど。」
ぼんやりと流れる景色を眺めても鳴らない心が溶かされる日が来るのだろうか。
「このまま、奏さんが住む予定のマンションに行きますね。時差ぼけもあるでしょうから、今日はゆっくりと休んで下さい。奏さん、家事が出来ないのは相変わらずだと聞いたので家政婦をお願いしてあります。」
「家政婦?」
「知らない人が部屋をウロウロするよりは、同じ人の方が良いだろうと社長の判断ですよ。」
「ふーん。」
確かに知らない人が毎回、ウロウロするよりはマシか。