駆け抜けた少女-番外編-
「………で、なんでお前が寝てんだよ」
寝たふりをしていた俺は、いつまで経っても部屋を出て行かない矢央に痺れを切らし、そっと瞼を持ち上げた。
すると驚くことに、目の前で猫のように丸まって寝ている矢央がいた。
「おいおい、風邪ひくんじゃねぇのか……」
すぐ傍に矢央の寝顔。
さっきのお返しとばかりに、今度は俺がこいつの寝顔を吟味してやる。
少し黒くなり始めた前髪を指で掬うと、真ん丸な大きい瞳が気持ち良さげに綴じられていて、黒く長い睫が時々ピクリと動く。
小ぶりな鼻、半開きの赤い唇、上気したほんのり桃色の頬───ぷにぷにだな。
餓鬼のこいつに、時々ふとドキッとさせられることがある。
あれは勘違いなんだろうと、何度も自分に言い聞かせた。
だってよお、俺とこいつじゃ幾つ離れてると思う?
こいつから見たら俺はおやじだろうし、俺だってこいつを完全に女としては見られねぇんだ。
「……うー…くしゅっ……」
矢央の驚く程細く軽い身体を己の方へと寄せてみると、暖を取りたいのか矢央は俺の胸元にグイグイと顔を寄せてくる。
ふ、と鼻で笑って、俺は布団をかけてやった。
「……ふあぁ」
うん、やっぱりこいつは餓鬼だ。
餓鬼は体温高いって言うからな。
「……あったけぇな」
たまにはこんな休日も悪くない───
土方歳三のとある休日。終