駆け抜けた少女-番外編-
「……矢央ちゃん、ごめんね」
泣かせてばかりでごめん。
新八さんや左之さんに抱きしめられて泣き喚く矢央ちゃんの背後に立って手を伸ばす。
透き通った手は矢央ちゃんの身体をするりと通り抜けてしまい、僕は手を力なく握った。
もうこの手で矢央ちゃんを抱きしめることも、涙を拭ってあげることもできないんだな。
「平助さんっ」
何度も何度もかすれた声が僕の名前を呼ぶ度に胸が張り裂けそうに痛かった。
可笑しいよね。
死んだはずなのに胸が痛むなんて。
「お華ちゃんの気持ちが今になって漸く分かった気がするよ」
「平助さん」
「でもさ死んだ人間には何も出来ないんだよね。後はさ、生きてる人間に託すしかない…んだよね」
「そうですね。それを私に教えてくれたのが彼女なんです。矢央さんは、辛いことを一つ一つ乗り越えて強く逞しくなってます。だから、だから大丈夫ですよ」
大丈夫、か。
うん、そうだよね。
新八さんや左之さんに促されて、僕から離れた矢央ちゃんの瞳は悲しみに揺れているけれど、それでもきっと彼女は彼女の力でまた立ち上がるんだろう。
だったら僕がしなければいけないことは、彼女を遠くから見守ることだけだ。